3)アディパティパッチャヨー(増上縁):他に匹敵するものがない支配・影響力を及ぼし、結果をもたらす法
●二種類のアディパティ(増上)
アディパティ(増上)には二つの種類があります。タハーザターディパティ(倶生増上)とアーランマナーディパティ(所縁増上)の二種類です。
タハーザターディパティ(倶生増上)とは
同時に生じる、チッタ(心)とチェータスィカ(心所)という名法に対し支配・影響力を及ぼすことをタハーザターディパティ(倶生増上)と呼びます。
四種類のタハーザターディパティ(倶生増上)
タハーザターディパティ(倶生増上)は四種類あります。最も強力な①チャンダ(意思)、②ヴィリヤ(精進)、③チッタ(心)、④ヴィーマンサ(観)の四種類です。ヴィーマンサと言うのはピンニャー(智慧)を指します。省略せず書くと、チャンダーティパティ(意思増上)、ヴィリヤーディパティ(精進増上)、チッターディパティ(心増上)、ヴィーマンサーディパティ(観増上)です。
アーランマナーディパティ(所縁増上)というのは
アーランマナーディパティ(所縁増上)というのは、対象を捕えた心に対し、強力なアーランマナ(所縁、対象)が心に支配・影響力を及ぼすという意味です。
少し分かりやすくなるようにタハーザターディパティ(倶生増上)とアーランマナーディパティ(所縁増上)について例をあげながら説明します。
●チャンダーティパティ(意思増上)が支配・影響力を及ぼす様子
強力なチャンダ(意思)を、チャンダーディパティ(意思増上)と呼びます。ある人が金持ちになりたいと思います。なりたいだけではありません。何が何でもなりたいと思います。どうにかして金持ちにならなければならない、とチャンダーディパティ(意思増上)が生じます。金持ちになりたいチャンダ(意思)がその人にどれくらい支配・影響力を及ぼすかと言うと、合法であれ非合法であれ、「俺が金持ちになることだけが重要だ」と、金持ちになりたい心がその人を支配します。チャンダーディパティ(意思増上)で身を固めます。
この種の、金持ちになりたいと言うチャンダ(意思)が強い力で怒涛のごとく支配し影響するようになるとその人は何も恐れないようになります。不善な行為も恐れません。不正行為により豊かになることを恥と思いません。独裁者にへつらって媚びを売ることもためらいません。金持ちになりたいというチャンダ(意思)を覆せるものは最早ありません。誰もそれを止めることができません。大麻を栽培して刈り取ったら死刑になると言われても、殺すなら殺してみろ、金持ちになることだけが重要だ、と大麻の栽培を続けます。死刑になることも金持ちになるというチャンダ(意思)を覆すことはできません。金持ちになるというチャンダ(意思)が、死を怖がる心を押さえつけます。
このような怖がる心、驚く心、恥じる心、飽きる心、迷う心、考えることができる心などの心の状態全てを、金持ちになりたいと言うチャンダ(意思)が支配し影響している状態をチャンダーディパティ(意思増上)がとりついていると呼びます。また、「タハーザターディパティ(倶生増上)がとりついている」と呼ぶこともあります。このような性質をアディパティパッチャヨー(増上縁):他に匹敵するものがない支配・影響力を及ぼし、結果をもたらす法と言います。これが不善なチャンダーディパティ(意思増上)です。
国が民主主義を取り入れ、民主主義のシステムの中で国民が平穏無事に、そして心身ともに元気で幸せに暮らすことができるようにさせたいというチャンダ(意思)を持つ人がいたとします。普通のチャンダ(意思)ではありません。強い力をもった強烈なチャンダ(意思)です。このチャンダ(意思)がその人に支配・影響力を及ぼし、民主主義を手に入れるために離婚することも厭いません。自分の子供と別れることもためらいません。命を失うことも怖がりません。善なるチャンダーディパティ(意思増上)がその人に支配・影響力を及ぼした結果です。
民主主義を手に入れることがゴールだ、合法的であれ非合法的であれとにかく民主主義を手に入れることが大事だ、と言うわけではありません。正しく、公正で、平等なやり方で民主主義を手に入れたいと願います。民主主義を手に入れるため、正しく、公平に行動します。不正で不当なやり方がその人に支配・影響力を及ぼすことはもうありません。ですから、不当な争いを仕掛けられても、相手に対し不当な争いを逆に仕掛けることはありません。
なぜ争いを仕掛けないのかと言うと、合法的に行いたいというチャンダ(意思)がその人に支配・影響力を及ぼしているからです。合法的に行いたいというチャンダーディパティ(意思増上)が具わっているからです。法に照らし合わせて民主主義を手に入れたいという強力なチャンダ(意思)が支配し、影響力を及ぼしていることを、チャンダーディパティ(意思増上)が具わっていると呼びます。これをタハーザターディパティ(倶生増上)とも呼びます。善い方向でチャンダーディパティ(意思増上)が具わっています。
●ヴィリヤーディパティ(精進増上)が支配・影響力を及ぼす様子
強力なヴィリヤ(精進努力)をヴィリヤーディパティ(精進増上)と呼びます。俺がやれば実現するだろう、民主主義を手に入れられるだろうと考えます。考えてそれを実行します。言葉だけではなく、力と熱意を込めて行動します。どのような困難に出くわしても後戻りしません。行動すれば実現するだろうという信念がその人を支配し影響を及ぼします。これを、ヴィリヤーディパティ(精進増上)を具えていると呼びます。タハーザターディパティ(倶生増上)を具えているとも呼びます。この性質が「他に匹敵するものがない支配・影響力を及ぼし、結果をもたらす法」の意味です。
●チッターディパティ(心増上)が支配・影響力を及ぼす様子
心が大変堅牢なことをチッターディパティ(心増上)と呼びます。「この人はとても頑固だ」と言ったり、聞いたりしたことがあると思います。「俺たちがこう言っているのだからそうしろ、他の誰も来るな、何も言うな」と言う人に出会ったことがあるかと思います。
心があまり堅牢でない人は、とても悪い状態に陥った際には、心が揺らぎ、まともな判断ができなくなります。とても善い状態になっても心が揺らぎ、判断を誤ることがあります。チッターディパティ(心増上)を具えた人は何を受け入れるかについて迷うことはありません。チッターディパティ(心増上)とはこのような状態を指します。
なんらかの原因により心が長く対象に留まる人に出会ったことがあるかと思います。「食べる時はあの心、どこかへ行く時にはこの心」という諺を聞いたことがあると思います。自分でもそうした言葉を使ったことがあるかもしれません。このような状態を、チッターディパティ(心増上)を具えている、と言います。このような性質が「アディパティパッチャヨー(増上縁):他に匹敵するものがない支配・影響力を及ぼし、結果をもたらす法」です。
●ヴィーマンサーディパティ(観増上)が支配・影響力を及ぼす様子
ヴィーマンサと言うのはパンニャー(智慧)です。何をするにしても、何を言うにしても、何を考えるにしても、行うこと、言うこと、考えることについて良く調べ、考え、パンニャー(智慧)に従って適切に行うことをヴィーマンサーディパティ(観増上)と言います。このような性質を、タハーザターディパティ(倶生増上)を備えていると呼びます。
四つのアディパティ(増上)の内、チャンダーディパティ(意思増上)、ヴィリヤーディパティ(精進増上)、チッターディパティ(心増上)の三つは、不善な領域でもアディパティ(増上)を具えることができます。善なる領域でもチャンダーディパティ(意思増上)、ヴィリヤーディパティ(精進増上)、チッターディパティ(心増上)を具えることができます。不善な領域でのみこれらのアディパティ(増上)を具えるのは益がありません。大きな誤りにつながります。
一方、ヴィーマンサーディパティ(観増上)については不善な領域でアディパティ(増上)を具えることはできません。ヴィーマンサーディパティ(観増上)は原因と結果、善と悪、正と不正を吟味、区分けして、善良で正しいことだけを行うので、ヴィーマンサーディパティ(観増上)を不善な領域で具えることはありません。常に善なる領域でのみ存在するアディパティ(増上)です。ヴィーマンサ(観)はパンニャー(智慧)というチェータスィカ(心所)です。ヘートゥパッチャヨー(因縁)に含まれるアモーハ(不痴)というのもパンニャー(智慧)というチェータスィカ(心所)です。ですから、ヴィーマンサーディパティ(観増上)はヘートゥ(因)の力も持ち合わせており、とても優れたアディパティ(増上)となっています。四つのアディパティ(増上)の中でヴィーマンサーディパティ(観増上)は最も優れています。
チャンダーディパティ(意思増上)が具わると、必ずヴィリヤーディパティ(精進増上)とチッターディパティ(心増上)が後から続いて加わります。ヴィーマンサーディパティ(観増上)の場合は必要な時にしか加わりません。ある時には、行いたいというチャンダ(意思)があるから行います。パンニャー(智慧)では行いません。後先考えず無鉄砲に行います。またある時にはヴィリヤ(精進)が満ちたために行います。考察することは全くありません。
ヴィーマンサーディパティ(観増上)が具わったら、続いてチャンダーディパティ(意思増上)、ヴィリヤーディパティ(精進増上)、チッターディパティ(心増上)が必ず加わります。パンニャー(智慧)ある人が仕事をする時の様子を見て下さい。しっかりと考察してから仕事に取り掛かります。強力なヴィリヤ(精進努力)で満たされています。なりたいという心、チャンダ(意思)も十分満たされています。誰が何と言おうと堅牢な心で、成功を目指して仕事を進めます。
●成功しない場合の主な原因
チャンダ(意思)が強固な人、強力なヴィリヤ(精進努力)がある人、心が堅牢な人、パンニャー(智慧)がある人にとっては、仕事が成就しない、成功しないということはありません。どのような分野であれ仕事が成就し成功します、とお釈迦様が説かれました。
ですから、人生を成功させたい人はこの四つのアディパティ(増上)の中の一つが自分の中に生じ、持続するようにしなければなりません。成功しない人は、自分の中にアディパティ(増上)が一つも生じていないために成功できない、と言うことに気づいて理解する必要があります。
●アーランマナーディパティ(所縁増上)が支配・影響力を及ぼす様子
ここで、アーランマナーディパティ(所縁増上)、対象を得た心に、強力なその対象が支配・影響力を及ぼす様子を、例をあげて説明します。
目で見る形という所縁(対象)、耳で聞く音という所縁(対象)、鼻で嗅ぐ臭いという所縁(対象)、舌で味わう味という所縁(対象)、身体で感じ取る接触という所縁(対象)、心で感じ取る思考という所縁(対象)、という六つのアーランマナ(所縁、対象)があることを以前学びました。
一人の若者が、目で見る形「少女」という所縁(対象)に愛情を抱きます。単に愛情を抱くだけではありません。熱烈な愛情を抱きます。その若者は少女という対象を見て、その少女のことを考えます。その際に少女の振舞いについて話をします。少女の臭い、少女の年齢、少女に触れた時の感覚などの対象が若者の心を支配します。その若者は少女のことばかり考えます。
少女に関連する対象がどれくらい若者の心を支配するかと言うと、お腹が空いたことに気づきません。10時間ぐらい座り続けても身体の痛みを感じません。周囲でどのような音がしても耳には入りません。このように何らかの対象が、その対象に注意を向けている人の心を支配することをアーランマナーディパティ(所縁増上)が具わっている、と言います。これは不善な領域での話です。善なる領域においても同じです。
ある人はレーピューとう芸能人が好きです。レーピューのコンサート開催を告げる音を聞くと、コンサートという対象がその人の心を支配し影響力を及ぼします。一日中コンサートのことばかり考えます。これをアーランマナーディパティ(所縁増上)が具わっている、と言います。今は不善な例えを挙げて説明しています。善なる対象についても同じであるということを憶えてください。これがアディパティパッチャヨー(増上縁)の概要です。
二十四縁起パーリの中でお釈迦様は、チャンダーディパティ(意思増上)が支配し影響力を及ぼすとどうなるか、チッターディパティ(心増上)が支配し影響力を及ぼすとどうなるか、アーランマナーディパティ(所縁増上)が支配し影響力を及ぼすとどうなるかについて詳細かつ広範に説明しています。今は初歩レベルのお話をしているので説明はこれくらいにしたいと思います。
私たちがアディパティ(増上)という、私たちを支配し影響力を及ぼすチャンダ(意思)が善なるチャンダーディパティ(意思増上)になるように努力しなければなりません。また私たちを支配し影響力を及ぼすアーランマナ(所縁、対象)が善なるアーランマナ(所縁、対象)になるように努力しなければなりません。
●最善なのは
最善のアーランマナ(対象)、最善のアーランマナーディパティ(所縁増上)である涅槃(覚りを得た聖者が享受できる寂静)という対象に注意を向けることができるように、ヴィパッサナー瞑想を実践し、努力を重ねる必要があります。集中すべき対象の中で涅槃という対象が最善です。対象を感受しながら果定に入り、涅槃という対象に触れるのが最高です。皆さんが最善の対象、最高の感受を享受できる人になれるように祈っています。
サンガの言葉