3.第3日目
ホテルを出発前にホテル内の売店を覗いたところ、仏像が売られていました。沙羅双樹の木でできているとのことで、聖地巡りに来た記念に買うことにしました。この日はブッダ生誕の地であるルンビニに向かいます。ルンビニはネパール領であり、陸路で国境を越えます。添乗員さんから、この日はツアーで一番の難所となると言われましたが、まさにその通りでした。
インド北部は辺境地域なので道路の舗装が良くなく、バスのサスペンションも良くないためか、バスの乗り心地が悪いのです。ひどいときは舗装の段差の衝撃で体が持ち上がるほどです。また約2時間ノンストップで走っても、トイレ休憩できる場所が全く無いのです。その場合は青空トイレで済ませました。男性であればそれほど気にしないかもしれませんが、女性の場合はかなり抵抗があると思います。またトイレ休憩できた場合でも、インドのトイレは総じて汚く、約30年前の日本の公衆トイレかそれ以下の状態です。
約7時間のバス乗車で、ネパールとの国境近くまで来ました。インドからネパールの税関手続で遅延が常態化し、ネパールへ行く道路は運送トラックの大渋滞に見舞われています。その為、まともに道路を走っていたらネパールにいつまでも到着しません。そこでどうするかというと、バスは反対車線を走行するのです。日本であればとても考えられませんが、インドでは当たり前のように走っていきます。他のバスや乗用車も同様です。当然、事故の起こる可能性は高くなります。この為にバスのヘルパーさんが必要だと改めて理解しました。
ネパールとの国境付近の街に到着し、まずインドの出国審査を受けます。出入国管理事務所と言っても、国境境界ではなく市街地の中にあり、見た目は普通の建物です。そこでいったん乗客全員がバスを下車して手続を行います。ツアーのグループごとに手続が行われる為、順番が来るまでは露店のチャイを飲んだりして待っていました。グループの順番近くになったら、ツアー客全員が出入国管理事務所の前で並んで手続を行います。そして全員の手続が完了したらバスに乗り込み、乗車したまま国境を越えます。ここで不思議なのが、出入国管理事務所と国境が離れているので、黙っていれば出国審査をしなくともネパールに入ることができてしまうことです。また国境付近は職員が配置されていますが、国境を歩いている人々は、自由に往来しています。気になったので調べてみたら、国境近くのインド人とネパール人は二国間協定により、審査なく往来できるようです。外国人は適用外というのは分かりますが、このような緩い国境管理のやり方もあるのかと思いました。それからネパール側に入り入国審査を済ませ、ルンビニに向かいます。午後4時にルンビニへ到着し、ようやく昼食です。
現代の海外旅行者の視点で見れば、今回の聖地巡りは秘境ツアーで過酷だと思いました。しかしその反面、昔の巡礼者の視点で見れば、現代の聖地巡りはとても安心だと感じました。旅行会社が聖地まで案内してくれて、具合が悪くなったら海外保険で医療を受けることができ、たとえ犯罪に巻き込まれても大使館に助けを求めることができます。昔の巡礼者であればそんな保障は一切なく、まさに生死を賭けて巡礼していたと思えば、現代の聖地巡りは大変有難いと思いました。
ルンビニはブッダの生誕の地であり、四大聖地の一つです。ブッダの生母である釈迦国のマーヤー王妃は隣国のコーリヤ国の出身で、里帰り出産の為にルンビニに立ち寄りました。王妃はルンビニで産気を催し、この世にブッダが生誕されました。大乗仏教ではブッダが生誕されたときに言った天上天下唯我独尊という言葉が有名ですが、この説話には続きがあり、もう二度と生存はないと記されています。これは輪廻転生から解脱し、覚りをひらくことを意味します。
ルンビニに入場する際は、入口で靴を脱ぐことになっています。聖地によっては脱がなくても良いところもありますが、礼拝の対象とされているところは、必ず脱ぐ必要があります。その為、履物の着脱を容易にし、足を洗いやすいように、日本からサンダルを持参しました。
現在、ブッダが生誕された場所には建物が建っており、マーヤー堂と呼ばれています。その中にはマーカーストーンという仏足の形で作られた石が安置されています。建物の中は混雑しており、巡礼者の団体が集団で声を出してお経をあげていました。これらの行為は行く先々の聖地で見られました。ブッダが説いた教えをブッダの聖地で、ブッダや他の人々に聞かせてやろうという態度だと、まさに釈迦に説法です。思わずイライラしそうになりますが、周りがドラや大声でお経をあげていても、自分のブッダへの思いが揺らがないぞと思い、あまり気にしないようにしました。マーカーストーンの前では立礼で三帰依を心の中で唱えました。
マーヤー堂のとなりには、ブッダが産湯に使用した際の池が残されています。見た目はプールのような四角形で、よく見るとナマズが泳いでいました。またルンビニにも礼拝の対象である樹木が植えられていました。仏教では三大聖樹というものがあり、無憂樹、菩提樹、沙羅双樹があります。無憂樹はマーヤー王妃がブッダをお生みになる際に寄りかかった樹木です。このルンビニの樹木が無憂樹と思いましたが、実際は菩提樹でした。現地ではこの周りを1周しました。
一通り見学が終わった後、現地ガイドさんから約30分の説明時間がありました。座って聞くことになり、この時間を活かしてサティを入れてみました。午後6時頃で日が暮れてきており、周りの音や寒さも感じながらの状況でしたが、何か心に暖かい感じがするのです。ここに座っていたい思いがしてきました。しばらくすると犬が吠えてきて、追い払うかどうか困りました。頭の中で妄想を張り巡らせたところ、急に犬が静かになりました。
ルンビニにはアショーカ王の石柱が建っています。アショーカ王は紀元前3世紀の人物で、王がこの聖地を参拝した記念に石柱が建てられました。石柱は行く先々の聖地で見られました。歴史学上ブッダとルンビニは存在自体が疑問視されていましたが、近代にドイツ人考古学者がアショーカ王の石柱を発見したことにより、ブッダとルンビニの実在が証明されました。
聖地巡りの後は、ルンビニのホテルに宿泊しました。(つづく)
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