瞑想者の皆様の反面教師になれるかも……と思い、書きました。瞑想をサボる矛盾だらけの瞑想落第生が、なんとか瞑想から離れることなく続けてきた過程です。

★2022年年初 No Way Out (追いつめられて)
 まずは自己紹介を。
 私は、表面上は真面目なビジネスパーソンである。今の状態を不幸せだといえばバチが当たるくらいに恵まれていると思う。家族・親戚とも仲が良いし、深く狭い親友もいる。
 それなのに何年も、ほぼ毎日一番苦しいのは出社前で、仕事に行くこと、仕事のために勉強することが、年々苦しくなってきていた。その感覚は、不安と恐怖で筋肉が硬直しているような状態であった。おかげでひどい肩こりのため、週に一回、筋肉を和らげる注射を打っており、職場では毎日イライラしていた。
 このままでは定年まで体力も気力も持たない。数十年もこの苦しみを味わうなんて耐えられない。何とかしなければ……。そういう状態であった。
 そして、この悪夢は、瞑想に出会っていたにもかかわらず、見続けていたのであった。

★瞑想に出会うまで(1) Apocalypse Now (地獄の黙示録)
 学生時代の私は、自覚のないエゴのロボットだった。エゴが生きるエネルギー。とにかく稼げるようになって金持ちになって周りを見返してやりたかった。裕福ではなかったので、奨学金をもらってアメリカへ行った。留学先で選んだのは演劇学科だった。
 当時は英語、IT、会計の3つが稼ぐための必須のスキルと言われており、英語ができるようになるには、英語で芝居をすればいいではないか。しかも、注目も浴びてエゴも満たされる、ということで選んだ。もちろん、芝居が好きだったことが本来の理由で、それは、演じることで他人の気持ちが分かるからだったが、それはエゴに隠れて小さくなっていた。
 他の留学生は親が車を買ってくれたり、休日は旅行をしたりして、比べるほどに「金持ちのボンボン大嫌い」という怒りも増えていった。そしてそれをバネにしていた。
 演技のクラスでは、過去の記憶を使う。Joy(喜び)であれAnger(怒り)であれ、過去から感情を呼び起こしてきて、現在の身体に載せて使う。失恋役なら悲しかったこと、チンピラ役なら恨みの記憶、思い出して貯めて使う、思い出して貯めて使うの反復練習。たくさんの映画を観て、いろんな場面のいろんな感情を貯めていく。善も不善も。
 一生懸命にやればやるほど貪瞋痴を引き出しに増やすのだが、当時はそんなことを知る由もない。もし心の仕組みを知っていたら、決して演劇を選ばなかったし、選んでしまった上でも、違うアプローチをしていただろう。余談になるが、俳優さんに自殺が多いのは、記憶と感情を再利用することが原因の一つではないかと思う。
 とうとう、摂食障害になった。食べては吐くを繰り返した。さらに恨んだ。なんで、私ばかり恵まれていないのか……。八つ当たりもいい加減にしろと今ならばわかるのだが、無明によって貪りと怒りが増えていく好例だった。
 ただ、良い経験もあった。毎回実技クラスの最初に瞑想っぽい練習があったのだ。目を閉じて、息を吐くごとに身体から力を抜いていく、リラックスする方法であった。これをすると頭の中の会話が消えてスッキリしたし、心が安らいだ。実際この練習がなかったら、もっと悲惨な状況になっていたかもしれない。
 そして、後々、因果の種のパワーを感じるきっかけになるのが、アメリカで観た映画「City of Angels」である。この映画は、人間を救う天使をニコラス・ケイジが演じており、人間を死なせまいと頑張る医者と恋に落ち、五蘊の執着のない天使の世界から、苦しみしかない人間界へ飛び降りて、自ら人間になる話である。天使が人間に手を置くと、人間が癒されて落ち着くのだ。こんな存在になれたらいいなと憧れた。
 とにかく、過去で一番辛かったのがこの留学時代なのだが、2022年にまた似たように苦しくなるとは思いも寄らなかった。

★瞑想に出会うまで(2) The Motorcycle Diaries (地獄で仏/ヨガ)
 社会人になった私は、異常にプライドが高く、イタい新人としてデビューした。最初に入社した企業では、あだ名が「アメリカ人」だった。アメリカ人に悪気はないが、私のエゴの強さを周りから指摘されていることのよく分かる、優れたあだ名である。この呼ばれ方をした時点で、自分は改めるべきところがあると気付けるような人間であったなら、悪化はこの辺で止んでいただろう。
 この職場では迷惑をかけ続け、あげくの果てに「もっと稼ぎたいので外資系に転職します」と、ここには書けない、本当に失礼極まりない辞め方をした。貪瞋痴の負債が貯まる一方なのがお分かりいただけると思う。悪を為して、悪を為す。悪のデパート。悪の総合商社。
 やはり、問屋が卸さないのである。次に転職した企業では、よくキレる先輩から怒鳴られ、泣かされ、毎日ほぼ終電。仲間だと思ってた同僚に騙されて数十万の高額なインチキ商品を買わされた。そうしているうちに過労で職場で倒れて、救急車で運ばれた。しかし、ここでも、エゴロボットの私は、自分が悪いとは一瞬も思っていないのである。無明とは本当に恐ろしいものである。
 回復後に出社すると、私が倒れた日に私の様子がいつもとは違う、おかしい、と気づいていてくれた同僚が寄ってきて、「ヨガをするといいよ」と誘ってくれた。ヨガの先生はインドで修行されたベテランの80代の男性で、毎回ハーレーダビッドソンに乗ってやってくる超元気な方だった。
 ヨガをやると姿勢も気分もよくなって、元気が戻ってきた。これで性格も治れば良かったのだが、治ったのは体力だけだった。ここでずっと続けていれば精神も治っていったのかもしれないが、場所が遠くて通うには厳しく、健康を取り戻した後に、ヨガは一旦ここで止めた。実際弱っている時に通えたのだから、頑張れば通える距離だったが、エゴが止めさせたのかもしれない。(つづく)