さて、今回は瞑想が非常にクリアになるという断食についての二回目です。今回は断食においてもっとも大事だと先生がおっしゃる復食を中心に話を伺いました。
【瞑想と断食】第2回 断食のプロセス
榎本 断食には、ソフトなもの、林檎はOKだとか、ジュースは飲んでもよいというやりかたもあるようですが。
地橋 小食健康法としてはよいと思いますが、水だけの本断食の効果には及びませんね。たとえ果物やジュース程度であっても栄養が体に入ると細胞は代謝を優先するため、老廃物を除去するオートファジー(自食作用)の働きが抑制されると言われます。
榎本 「オートファジー」というのは、大隅教授のノーベル賞研究ですね。
地橋 はい。オートファジーは、断食のデトックス(解毒)効果の立役者だと思います。絶食によってオートファジーが強く活性化するので何も食べないほうがいいのです。それに、水だけの断食なら内臓が全面休息できるし、50時間程度でもD先生は胃袋が小さくなったと驚いていました。
榎本 ほお。それはどうしてわかるんですか。
地橋 バナナを食べようとしても、半分も食べられなかったりしましたから。でも、正確には、胃が小さくなったのではなく、満腹中枢の信号が早くなったので食べられなくなったのだと思います。
榎本 瞑想者が期待する「断食による意識の透明化」は、解毒とはまた別のメカニズムなんでしょうかね。
霧が晴れる
地橋 食事のエネルギーが切れると肝臓のグリコーゲンが使われ、それが切れるとケトン体という燃焼効率のよいエネルギーが働き始めます。これが霧が晴れたような意識の透明感の正体ですね。
榎本 ケトン体。体が糖(ブドウ糖)ではなく脂肪をエネルギーとして使うときに肝臓で作られる物質ですね。健康促進の文脈でもよく聞く語です。最近の健康法では糖質制限をして「糖より脂肪を燃やす体にする」のが流行しているので。それは脳にもいいのですか。
地橋 凄くいいです。ケトン体に切り替わると非常に覚醒感があるんです。飢えた野生動物たちもみなケトン体を使っていますが、進化の過程で得られたものだからでしょうね。飢餓状態になれば何としても食糧を獲得しなければならず、サバイバルモードに入った脳が微細な信号を拾うために感度を最大まで上げるんです。視覚も聴覚も嗅覚もマックスにして狩を成功させなければ生存が危うくなる。
榎本 通常の意識状態とそんなに違うのですか?
地橋 ケトン体が脳に回ってくると、凄いですよ。鳥の囀りや谷川のせせらぎなどこの世のものとは思えない鮮明さで聞こえ、沈々たる静けさが体に拡がってくると瞑想そのものが快感になり、サマーディに入りやすくなります。もちろん個人差が大きいのですが、傾向としては痩せ型の人に顕著ですね。
榎本 それは非常に興味深いですね。ただ、それには苦しい断食に耐えなければならないということですね。
地橋 はい。トレードオフです。今回、D先生も私も、断食中に胃液を吐いたりするほど苦しかった。
榎本 胃液を吐く……、それはかなりツラそうですね。
地橋 痩せ型と肥満型では断食の進行がまったく違うし、解毒のプロセスが人によって千差万別です。私は自分だけではなく、合宿中に48時間の断食をした人の膨大なデータが記憶に入っていますが、悪食をしていた人は大抵デトックス(解毒)の反応に苦しみます。
昼寝
榎本 断食中は、瞑想はまったくできないのですか。
地橋 瞑想できなくなったら午睡をとるようにアドバイスします。寝れば必ず回復するので、また瞑想し、ダメになったらまた寝るを繰り返します。
榎本 なるほど。脳を使っているとアデノシンという疲労物質が溜まってきてブレインフォグになると言われていて、短い昼寝をするとこれが一掃されてスッキリするみたいですね。僕もよく昼寝を活用しています。
地橋 よくご存知ですね。私も昔からパワーナップ(短い午睡)を多用してきました。下館のグリーンヒル道場には多目的部屋があり、昼寝がOKなので多くの人が10分間程度の午睡でブレインフォグの霧が晴れたと報告しています。断食者にも、これを適用しているというわけです。
榎本 谷中の1Day合宿にも午睡部屋が欲しいですね。(笑)
地橋 午睡を禁じている老サヤドウ達が多いですが、瞑想中に眠気が来たらまずサティで対応し、どうしてもダメなら負け戦をグズグズ続けないで、10分間の午睡でスッキリしたほうが合理的だと私は考えています。
危険要素
榎本 普段から体の中をきれいにしていれば断食中でも瞑想可能となるとお聞きしました。ほかに、断食の苦しさや危険があるところはどこになりますか?
地橋 大抵の人は絶食開始後24時間ぐらいで低血糖状態に襲われてフラフラになり、これが苦しいのです。体が汚染されていれば、吐いたり、醤油のような小便が出たり、ほぼ一日中眠り続ける人もいます。解毒の好転反応ということを知らないと、狼狽えてパニックになるかもしれませんね。でも、これは必要悪で、たとえ断食中は何もできなくても、その後に良い瞑想をして挽回すればよいと考えています。
榎本 ふむ。で、断食で一番気をつけなけれならないのは…。
地橋 ズバリ断食を解いた後の復食です。断食の失敗は復食に集約していて、前回お話したように、長期断食の場合、死ぬ人がいるし、餓鬼道に堕ちたように食べ続けて体を壊すなどの逆効果も多いです。断食がうまくいくかどうかは50/50程度と見ていますが、まあ、失敗しても短期なら悲惨なことにはならないと思います。
復食の目安
榎本 イメージを掴むために、復食のプロセスの例を示していただけませんか。
地橋 しかし、それを示すと皆さんそれに飛びつくでしょう。
榎本 なので差し障りのないレベルで。
地橋 かなり長期にわたって断食をした場合は、必ず重湯からですね。
榎本 グリーンヒルの合宿では?
地橋 梅湯です。5~6日以内の断食なら梅湯で解けます。すっきりした空腹感があれば理想的なタイミングです。まだデトックスの最中だと食べたくないし、気持ちが悪かったりしますが続行はさせません。たとえ断食期間中がヘロヘロでも、後半戦でよい瞑想をするための断食ですから。
榎本 で、梅湯の次は?
地橋 ここですぐに糖質を入れると血糖値スパイクというインシュリンの乱高下があるのですが、エネルギーを入れないと瞑想ができないので柑橘類やバナナ半分、リンゴ一切れ、具を抜いた味噌汁、煎餅1枚、カンパン2個、ヨーグルト少々などですが、分量は個人差が大きいので全部食べる人もいれば、残す人もいる。ここでナッツを2、3粒よく噛んで食べておくと腹持ちが良くなる傾向もあります。
榎本 かなり少ないですね。
地橋 栄養吸収能力が爆上がりしているので、わずかな分量で通常の食事に匹敵します。
榎本 僕のような年齢になると、血圧やコレステロールの値の調整のために、継続服薬している人も多いんですが、その状態で薬なんか服用すると危いのでは。
地橋 もちろんです。効きすぎて危険です。その他、何が起きるかわからないので、よく知らない人に断食はやらせたくないんです。
榎本 ふむ。「フグは食いたし、命は惜しし」ですね。で、復食の分量ですが…。
博打
地橋 最初の復食は博打のようなものです。多ければ過食のボケ、少なければ低血糖状態のボケ、上手くいけば「おお、来た、来た!」と絶好調になる。断食のプロのような私でも、毎回この博打をやっています。
榎本 ちょっと驚きですね。もし摂取量に失敗すると、ただ後悔だけになるんですか?
地橋 いや、数時間は悔しい思いをしますが、次の食事で調整して挽回できますよ。
榎本 敗者復活戦があるんですね。(笑)
地橋 そう。微調整して体が整うと良い瞑想ができます。
榎本 翌日以降はどんな風に戻していけばいいんですか?
地橋 食欲が出てくるし、早く栄養をつけて回復しようと思いがちですが、わずかな量で不思議なくらいやれるものです。「48時間断食の翌日に焼肉定食を食べても何ともなかったですよ」と言った馬鹿者もいましたが、鈍感なだけで断食効果は水の泡ですね。一度胃袋を広げてしまうと、次回の食事も同じ分量を食べないと気が済まなくなるものです。
榎本 低い階段を一段づつ昇るように増量することを心掛けよ、と。
地橋 そうです。私は過敏なので、赤ちゃん粉ミルクを一匙多くしただけで頭がボケボケになり、まったく瞑想できずにひどい目に遭ったことがあります。蛋白質は組成が複雑なので、豆腐→納豆→鰹節→白身魚→赤身魚→肉類→卵という流れです。ヨーグルトを1食目から摂るのは、解毒された直後の腸内に良質な菌を送り込むためです。
榎本 普通食に戻る日数はどのくらいですか?
地橋 食事を減量しながら断食に入り、復食は断食期間の2倍などと書いてある本が多いですが、たとえ50余時間の断食であっても、2~3週間かけて普通食に戻すのが理想的だと私は考えています。その間の瞑想は普段とレベルが違うので、効果を持続させたいのです。
榎本 外食はどうしているんですか?
地橋 これが悩みの種です。朝カル後の食事会などで破壊されてしまうことが多いですね。ドスンと腹に異物が侵入した感じがしてオシマイです。
榎本 オシマイと言うのは?
地橋 強引に凡夫に戻されてしまった感じです。断食効果の透明感は失われ、翌日からはそれまでの少食ではやれなくなります。
榎本 先生は敏感すぎるのではないでしょうか。
地橋 かもしれませんが、人体構造のメカニズムは普遍的で、それを敏感に感じているのだと思います。
飴とチョコレート
榎本 僕はさほど太っていないし、1日二食で朝食は摂らない生活をしていますが、それでも、目の前にお菓子などがあるとつい手を出して後で悔しくなることがあります。1Day合宿では補給用にキャンディやチョコレートが置いてありますが、あれは撤去すべきではないか、などと言うと仲間に怒られるかしら。(笑)
地橋 どこの寺にも置いてあるので用意してありますが、私は長年の経験から間食は一切やりません。飴やチョコレート一粒のエネルギーが瞑想で利用可能なのはせいぜい15分ぐらいですよ。糖質は比較的早く脳に届くと言われていますが、私の経験則では「おお、来た、来た」となるのに1時間ぐらいかかります。
低血糖でボケてきたので飴をなめる。冴えるのは1時間後。その持続時間は15分。その後はインシュリンの影響で急激な低血糖状態でボケボケ…。しかも虫歯も気になる。瞑想に全然よくないでしょう。
榎本 エネルギーが切れてくると何か口にしたくなるし、心理的効果というか、偽薬効果があるのかもしれませんね。
地橋 私のような痩せ型タイプだと、エネルギー切れの苦しい状態を耐え忍ぶと、約7~8時間後にケトン体が使われ始めて異様な明晰さが訪れるんです。
榎本 え、そうなんですか?
地橋 ここからの瞑想はもの凄くいいですよ。タイやミャンマーの寺ではいつもそうしていました。低血糖状態の間は非常に苦しく、サティの瞑想はできないので渾身の力をふり絞って慈悲の瞑想をやりながら耐え忍ぶんです。するとケトン体が燃焼し始めて絶好調になるんです。
榎本 ほお。その現象は先生固有の特殊なものではなく、普遍性があるのでしょうか。
地橋 実は、合宿をやっていると、いろんなことを瞑想モルモットが検証してくれるんです。(笑)
榎本 瞑想モルモット?!
地橋 いや、瞑想者様に大変失礼なネーミングをして申し訳ないのですが、私の個人的体験なのか普遍性があるのかは瞑想理論の確立に重大なことでしたから、インストラクションの結果を常に分析してきました。
榎本 なるほど、統計的な裏付けもあるということですね。つまり、他の方々も……。
地橋 ケトン体が燃え始めるのは、一般的に最終食事から18〜24時間後とされますので、肥満型の人はこの恩恵を得るのが遅くなります。しかし、痩せ型の人はほぼ私と同じような結果を報告していますね。夜座をしていて、苦しい低血糖状態を抜けた後に最高の瞑想ができたという人が何人もいました。
榎本 いやー、知らないことばかりでしたが、ところで先生が断食を研究しようとしたのはどういう理由があってのことだったんですか?
以下次号。
*この対談は断食マニュアルではないので、賢明なる瞑想者はこれを読んで安易に断食を実行しないように、と先生がおっしゃっていたことを付記しておきます。(榎本註)
先生と話そう